「きょうはゆっくり浜見物でもして、日が暮れてから仕事にかかるんですね」
そこらをひとわたり見物して、三人は夕方に帰って来た。
「どうします。真っ直ぐにあがりますか」と、案内者の三五郎は云った。「岩亀は遊ばなくってもいいんです。ただ見物だけでもさせるんですから、ともかくも見物のつもりであがってみて、それからの都合にしたらどうです」
「それもよかろう。ここへ来たら土地っ子のお指図次第だ」と、半七は笑った。
大門《おおもん》のなかには柳と桜が栽《う》えてあって、その青い影は家々のあかるい灯のまえに緩《ゆる》くなびいていた。その白い花は家々の騒がしい絃歌に追い立てられるようにあわただしく散っていた。三人は青い影を縫い、白い花を浴びてゆくと、まだ宵ではあるが遊蕩《あそび》の客と見物人とが入りみだれて、押し合うような混雑であった。
「よし原の花どきより賑やかだな」
そういう半七の袂をひいて、三五郎は俄かにささやいた。
「あ、あれ、あすこにいる奴がロイドです」
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