「もし、おまえさん。どうしなすった。もし、もし……」
呼び活けられて忠三郎は初めて眼をあくと、提灯をさげた男が彼のそばに立っていた。男は下谷の峰蔵という大工で、化け銀杏の下に倒れている忠三郎を発見したのであった。
「ありがとうございます」
云いながら懐中へ手をやると、主人から別に渡された百両の金は胴巻ぐるみ紛失していた。驚いて見廻すと、抱えていた一軸も風呂敷と共に消えていた。自分の羽織も剥がれていた。忠三郎は声をあげて泣き出した。
峰蔵は親切な男で、駒込まで行かなければならない自分の用を打っちゃって置いて、泥だらけの忠三郎を介抱して、ともかくも本郷の通りまで連れて行って、自分の知っている駕籠屋にたのんで彼を河内屋まで送らせてやった。河内屋でも忠三郎の遅いのを心配して、迎いの者でも出そうかといっているところへ、半分は魂のぬけたような忠三郎が駕籠に送られて帰って来たので、その騒ぎは大きくなった。勿論捨てて置くべきことではないので、稲川の屋敷へも一応ことわった上で、その顛末を町奉行所へ訴え出た。豊中 インプラント 天才になるのに遅すぎることはない