教えられてよく見ると、大きな柳の下にひとりの異人が立っていた。痩形《やせがた》の彼は派手な縞柄の洋服をきて、帽子を深くかぶって、手には細いステッキを持っていた。さし当りどうするというわけにも行かなかったが、ここで幸いにロイドを見つけた以上、半七はその監視を怠ることは出来なかった。かれは三五郎と松吉に眼でしらせて、少しく混雑の群れから離れた。三人は桜のかげにたたずんで、若い異人の挙動をうかがっていた。
「そこが岩亀ですよ」と、三五郎はまた教えた。
ロイドは岩亀の店さきから二、三間|距《はな》れたところに立ち暮らして、誰かを待ち合わせているらしかった。果たして岩亀の店口から二人づれの男が出てきた。そのあとから引手茶屋の女が付いて来た。それをみると、ロイドは柳の蔭からつかつかと出て行って、立ち塞がるように二人のまえにその痩せた姿をあらわすと、彼等はそこに立ちどまって何か小声で話し合っているらしかったが、やがて二人は茶屋の女に別れて、ロイドと一緒にあるき出した。
副業 女性副業