その令兄は、私に何日でもゆっくり滞在しろと云ってくれた。だが、私はただS金山の外貌を一瞥しただけで、数日後に再び立ちもどって来ることにしてそこを発たねばならなかった。私は『キユウヨウサツポロニキタエキマエ××リヨカンニテマツ』という森山の電報を受けとっていた。それで土田も共に、今その札幌へむかう途中だった。私は森山が待っていると思って、何か心急がれていた。
「そうそう、去年の暮、それもぐッと押しつまった三十日だった。僕は十日ばかり北海道へ来ていて東京へのかえり途だったが、長万部の駅で偶然森山君や中野君と落ち合ったよ」
土田は窓を掠める雪景色から私の方へ目を移して、煙草で荒れた舌を気にするような口つきをしながらそんなことを云いだした。
Windows 8 wiki tomosibi - 暗夜に灯を失う