私はその無造作な言葉にやや驚かされたが、いずれ何か商用を兼ねての事だろうと簡単に解釈し、それは自分にとってもこのうえもない好都合だと思った。というのは、土田の令兄がS金山の鉱業所長をしていて、土田も北海道へ行くなら其処へ行けと私にすすめていたからだった。S金山はこの夏に新精錬所の増築も竣工して、その千瓲(一日の処理鉱石)プラントの新設備は東洋第一という事である。私も是非それを見て来たいと思っていた。
そんな次第で、昨日まず私達は長万部で室蘭線に乗換えてS金山へ行った。だが、駅に下りた時にはすでに暮色が迫っていて、ただ山裾にひらけた鉱山部落や、山腹あたりに延びている大通洞の輸車路や、雪崩のように傾斜した精錬所の大屋根を途すがら眺めただけで、灯点しごろ所長の家へ入った。土田の令兄は、いかにも一山を背負っている気魄が眉宇の間にもうかがえるといった人だった。私達は薪ストーブの燃えさかる座敷で噴火湾で獲れた鰯を肴に、よく飲みよく語った。殊に令兄は腹蔵なくいろいろなことを話してくれた。酒のうえの事で気焔めいた趣もないではなかったが、そうした言葉の節々にも、経験に鍛えられ信念に生きるもののみの持つ人間の重味が、頼もしくひびき出ていた。
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