2012年9月29日土曜日

ところが、この声は


 ところが、この声は、寝床のうえから聞えず、とんでもないところから聞えたから、三郎は、面くらった。それは、どう考えても、仕切りの扉のすぐ裏のところで、しかも天井とすれすれまでにのぼっていられるようにしか考えられなかった。
「艇長、大丈夫ですか」
「なんだ、どうしたのか。わしの寝床を、どこへ持っていったか」
 艇長は怒っていられる。
「艇長。只今、重力装置が故障であります」
「なに、重力装置の故障か。それは……」
 といいかけたとたん、三郎の身体は、急に目に見えないもののために、すがりつかれたような気がした。
 ぴしゃん! 室内は、もうもうと煙立つ。煙ではない湯気であった。
(重力装置が直ったんだな)
 と、三郎の頭の中に、そのことが稲妻のようにひらめいたが、とたんに、横の仕切りの扉の向こうに大きなもの音があった。
 どすーん。床が、びりびりと震動した。


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