2012年8月4日土曜日

夏と旅とがよく結び付けられて

夏と旅とがよく結び付けられて稱(とな)へらるゝ樣になつたが、私は夏の旅は嫌ひである。山の上とか高原とか湖邊海岸といふ所にずつと住み着いて暑い間を送るのならばいゝが、普通の旅行では、あの混雜する汽車と宿屋とのことをおもふと、おもふだに汗が流るゝ。  夏は浴衣一枚で部屋に籠るが一番いゝ樣である。靜座、仰臥、とりどりにいゝ。ただ專ら靜かなるを旨とする。食が減り、體重も減る樣になると、自づと瞳が冴えて來る樣で、うれしい。 夏深しいよいよ痩せてわが好む面(つら)にしわれの近づけよかし  十年ほど前に詠んだ歌だが、今でも私は夏は干乾びた樣に痩せることを好んで居る。それも、手足ひとつ動かさないで自然に痩せてゆく樣な痩せかたである。耳に聽かず、口に言はず、止むなくば唯だ靜かにあたりを見てゐるうちにいつ知らず痩せてゐてほしい。 被リンク 夏への扉|DECOLOG