2012年7月25日水曜日

倶不戴天の親の仇

倶不戴天の親の仇、たまさか見付けて討たんとせしに、その仇は取り逃がし、あまつさへその身は僅少の罪に縛められて邪見の杖を受る悲しさ。さしもに猛き黄金丸も、人間に牙向ふこともならねば、ぢつと無念を圧ゆれど、悔し涙に地は掘れて、悶踏に木も動揺ぐめり。  却説く鷲郎は、今朝より黄金丸が用事ありとて里へ行きしまま、日暮れても帰り来ぬに、漸く心安からず。幾度か門に出でて、彼方此方を眺れども、それかと思ふ影だに見えねば。万一他が身の上に、怪我はなきやと思ふものから。「他元より尋常の犬ならねば、無差と撲犬師に打たれもせまじ。さるにても心元なや」ト、頻りに案じ煩ひつつ。虚々とおのれも里の方へ呻吟ひ出でて、或る人家の傍を過りしに。ふと聞けば、垣の中にて怪き呻き声す。耳傾けて立聞けば、何処やらん黄金丸の声音に似たるに。今は少しも逡巡はず。結ひ繞らしたる生垣の穴より、入らんとすれば生憎に、枳殻の針腹を指すを、辛うじてくぐりつ。

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