と雨戸を離れて、肩を一つ揺って行こうとする。広縁のはずれと覚しき彼方へ、板敷を離るること二尺ばかり、消え残った燈籠のような白紙がふらりと出て、真四角に、燈が歩行き出した。
「はッあ、」
と退って、僧に背を摺寄せながら、
「経文を唱えて下せえ、入って来たわ、南無まいだ、なんまいだ。」
僧も爪立って、浮腰に透かして見たが、
「行燈だよ、余り手間が取れるから、座敷から葉越さんが見においでだ。さあ、三人となると私も大きに心強い――ここは開くかい。」
「ええ、これ、開けてはなんねえちゅうに、」
「だって、あれ、あれ、助けてくれ、と云うものを。鬼神に横道なし、と云う、情に抵抗う刃はない筈、」
枢をかたかた、ぐっと、さるを上げて、ずずん、かたりと開ける、袖を絞って蔽い果さず、燈は颯と夜風に消えた。が、吉野紙を蔽えるごとき、薄曇りの月の影を、隈ある暗き葎の中、底を分け出でて、打傾いて、その光を宿している、目の前の飛石の上を、四つに這廻るは、そもいかなるものぞ。
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