渠は、今更ながら、しとど冷汗になったのを知った。
窓を開けたままで寝ると、夜気に襲われ、胸苦しいは間々ある習で。どうかすると、青い顔が幾つも重って、隙間から差覗いて、ベソを掻いたり、ニタニタと笑ったり、キキと鳴声を立てたり、その中には鼠も居る。――希代なのは、その隙間形に、怪しい顔が、細くもなれば、長くもなり、菱形にも円くもなる。夕顔に目鼻が着いたり、摺木に足が生えたり、破障子が口を開けたり、時ならぬ月が出でなどするが、例えば雪の一片ごとに不思議の形があるようなもので、いずれも睡眠に世を隔つ、夜の形の断片らしい。
すると、今見た女の顔は……何に憑いて露れたろう。
「何だか美しかった。」
と思出して、今度は悚然とした。
「そして、奥さんだ?……奥さんとはどこの奥さんだ。」
確に此家の細君の顔ではない、あれでなし、それでもなし、目がぱっちりして、色が白く、前髪がふっくりと、鼻筋通り……
と胸の裡で繰返して、その目と、髪と、色艶と、一つ一つ絡まり掛けると……覚がある!
トンと寝台に音を立てて、小松原は真暗な中に、むっくと起きた。
「馬鹿な。」
と思わず呟いた。
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