2012年6月22日金曜日

私の目か眩んだんでせうか

「私の目か眩んだんでせうか、婦は瞬をしません。五分か一時と、此方が呼吸をも詰めて見ます間――で、餘り調つた顏容といひ、果して此は白像彩塑で、何う云ふ事か、仔細あつて、此の廟の本尊なのであらう、と思つたのです。  床の下……板縁の裏の處で、がさ/\がさ/\と音が發出した……彼方へ、此方へ、鼠が、ものでも引摺るやうで、床へ響く、と其の音が、變に、恁う上に立つてる私の足の裏を擽ると云つた形で、むづ痒くつて堪らないので、もさ/\身體を搖りました。――本尊は、まだ瞬もしなかつた。――其の内に、右の音が、壁でも攀ぢるか、這上つたらしく思ふと、寢臺の脚の片隅に羽目の破れた處がある。其の透間へ鼬がちよろりと覗くやうに、茶色の偏平い顏を出したと窺はれるのが、もぞり、がさりと少しづゝ入つて、ばさ/\と出る、と大きさやがて三俵法師、形も似たもの、毛だらけの凝團、足も、顏も有るのぢやない。成程、鼠でも中に潛つて居るのでせう。

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