2012年6月6日水曜日

はいはい、この団子でござりますか


「はいはい、この団子でござりますか。これは貴方、田舎出来で、沢山甘くはござりませぬが、そのかわり、皮も餡子も、小米と小豆の生一本でござります。」
 と小さな丸髷を、ほくほくもの、折敷の上へ小綺麗に取ってくれる。
 扇子だけ床几に置いて、渋茶茶碗を持ったまま、一ツ撮もうとした時であった。
「ヒイ、ヒイヒイ!」と唐突に奇声を放った、濁声の蜩一匹。
 法師が入った口とは対向い、大崩壊の方の床几のはずれに、竹柱に留まって前刻から――胸をはだけた、手織縞の汚れた単衣に、弛んだ帯、煮染めたような手拭をわがねた首から、頸へかけて、耳を蔽うまで髪の伸びた、色の黒い、巌乗造りの、身の丈抜群なる和郎一人。目の光の晃々と冴えたに似ず、あんぐりと口を開けて、厚い下唇を垂れたのが、別に見るものもない茶店の世帯を、きょろきょろと※していたのがあって――お百姓に、船頭殿は稼ぎ時、土方人足も働き盛り、日脚の八ツさがりをその体は、いずれ界隈の怠惰ものと見たばかり。小次郎法師は、別に心にも留めなかったが、不意の笑声に一驚を吃して、和郎の顔と、折敷の団子を見較べた。


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