2012年2月9日木曜日

最初の緊張がゆるむと

最初の緊張がゆるむと、わたくしは寺僧が看経(かんきん)するらしい台の上に坐して、またつくづくと仰ぎ見た。美しい荘厳な顔である。力強い雄大な肢体である。仏教美術の偉大性がここにあらわにされている。底知れぬ深味を感じさせるような何ともいえない古銅の色。その銅のつややかな肌がふっくりと盛りあがっているあの気高い胸。堂々たる左右の手。衣文につつまれた清らかな下肢。それらはまさしく人の姿に人間以上の威厳を表現したものである。しかもそれは、人体の写実としても、一点の非の打ちどころがない。わたくしはきのう聖林寺(しょうりんじ)の観音の写実的な確かさに感服したが、しかしこの像の前にあるときには、聖林寺の観音何するものぞという気がする。

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