2013年5月19日日曜日

『なんてちつぽけな奴だい―』

『なんてちつぽけな奴だい―』  彼は怪物を軽蔑した、手の平にのつかりさうな一匹の小犬がクンクンと泣きながら立つてゐた。
電燈の光りの加減で倍加されて影が道路に映つてゐるのであつた。 『やい、小犬奴が、わが王者の御通行をはばむとは―さては我に害心ありと見えたり』  足を踏張り芝居がかりで、彼は小犬の鼻先へ親指を突き出し『怪物消えてなくなれッ』ととりとめもないことを呪ひ出した。  小犬はだんだんと拳ほどの大きさから鶏卵の大きさに縮まり、ピンポン玉ほどになり、つひに姿を消した。彼は胸をそらし、陽気になつて大きな声で歌をうたひだした。  不意に道路脇の暗がりから、若い警官が現れてきて呼びとめた。 『ちよつと待ち給へ、君はいま何の歌をうたつてゐたかね―』  彼はいま歌つてゐた許りの歌を忘れてゐた。若い警官は改まつてたづねた。 『君は現在の政府に不満をもつてゐないかね』 早慶個別スクール 個別指導学習塾開業ナビ