「で、何処からだというのか」
「勿論、西比利亜地方からです。ハバロフスク附近を午後八時に出発してやって来たとすると、方向も進路も、従って時刻も勘定が合います」
「ふうん。候補生だけあって、戦略の方は相当なものじゃネ」
隊長は、わが意を得たという風に微笑した。
「隊長どの、敵機の高度を判定しました。王子、板橋、赤羽、道灌山の各聴音隊からの報告から綜合算出しまして、高度五千六百メートルです」
「そうか。立川の戦闘機も、ちょっと辛い高度だな。それでは高射砲に物をいわせてやろう。第一戦隊、射撃準備!」
対空射撃高度が十キロを越す十糎高射砲の陣地では、一斉に砲弾と火薬とが填められた。照準手は石のように照準望遠鏡に固着している。
間近かの照空灯は、聴音隊からの刻々の報告によって、まだ灯火の点かない真暗な鏡面をジリジリ細かく旋廻している。点減手はスウィッチの把手を握りしめている。もう耳にも敵機の轟々たる爆音がよく聞きとれた。
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