男は関所の手形を持っていないのである。こういう旅人は小田原や三島の駅にさまよっていて、
武家の家来に幾らかの賄賂をつかって、自分も臨時にその家来の一人に加えて貰って、無事に箱根の関を越そうというのである。勿論、手形には主人のほか家来何人としるしてあるが、荷物が多くなったので臨時に荷かつぎの人間を雇ったといえば、大抵無事に通過することを許されていた。殊に御用の道中などをする者に対しては、関所でも面倒な詮議をしなかった。この男もそれを知っていて、あしただけの供を七蔵に頼んだのであった。
大方そんなことであろうと、七蔵も最初から推量していたので、彼はその男から三分の銭を貰ってすぐに呑み込んで、あしたの明け六ツまでに本陣へたずねて来るように約束して、彼はその男と別れた。こういうことは武家の家来が一種の役得にもなっていたので、よほど厳格な主人でない限りはまず大眼に見逃がしておく習いになっていた。殊に七蔵の主人の市之助はまだ若年であるので、勿論そんなことは家来まかせにして置いた。楽天市場 還暦祝い 女性 退職祝い 【楽天市場】就職・昇進・退職祝い | 名入れのできるギフト・プレゼント