婆さんはもう六十幾つというので、足がのろかった。
頭巾に顔をつつんでとぼとぼとあるいて来た。お倉はじれったいのを我慢して、それに附き合って歩いていると、婆さんは何か詰まらないことをくどくどと話しかけた。気の急いているお倉は上の空で返事をしながら、婆さんを引っ張るようにして急いで帰った。町内の灯はもう目の前に見えた。
隣り町との町境に土蔵が二つ列んでいるところがあって、それに続いて材木屋の大きい材木置場があった。前後の灯のかげはここまで届かないので、十間あまりの間には冬の夜の闇が漆のように横たわっていた。自分の町内にはいるお倉は、どうしてもこの闇を突っ切って行かなければならなかった。この間の晩、煙草屋の娘が災難に逢ったのも此の辺だろうと思いながら、彼女は婆さんを急き立てて歩いてくると、積んである材木のかげから犬のようなものが這い出した。
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