2012年12月23日日曜日

かの女を出迎えて

 かの女を出迎えて、それからサロンへ導いた規矩男の母親は、
「毎度、規矩男がお世話さまになりますことで」 と半身を捩じらして頭を下げた。もっともその拍子にかの女の様子をちらりと盗み視したけれども、かの女はどこの夫人にもあり勝ちな癖だからと、別にこれをこの夫人の特色とも認めることは出来なかった。  かの女は普通に礼を返した。  話はぽつんとそれで切れた。好奇心で一ぱいのかの女には却って何やかや観察の時間が与えられ都合がよかったが、常識的の社交の儀礼に気を使うらしい夫人は、ひどく手持ち無沙汰らしく、その上茶を勧めたり菓子を出したりして、沈黙の時間を埋めることを心懸けているように見えた。  かの女は、まず第一に夫人を美人だなと思った。それは昔風の形容の詞句を胸のうちに思い泛べさせる美人だなと思った。いわゆる瓜実顔に整った目鼻立ちが、描けるように位置の坪に嵌っていて、眉はやや迫って濃かった。かの女は逸作の所蔵品で明治初期の風俗を描いた色刷りの浮世絵や単色の挿画を見て知っていた。いわゆる鹿鳴館時代と名付ける和洋混淆の文化がその時期にあって、女の容姿にも一つタイプを作った。江戸前のきりりとして、しかも大まかな女形男優顔の女が、前髪を額に垂らしたり、束髪に網をかけたりしていた。そして襟の詰った裾の長い洋装をしていた。医師国家試験 ドクター家庭教師スクール 東京・関東 チャート医師国家試験対策 公衆衛生 - goo ヘルスケア