2012年11月20日火曜日

係長は鉄管の側に寄ったが

 係長は鉄管の側に寄ったが、直ぐに顔をしかめて、 「うむ、こりゃアもう、片盤鉄管へ連結して、この瓦斯をどしどし流してしまわねばいかん。そうだ。匂いで判るな。じゃア君は、時どき調べてみて、瓦斯の排出工合を見守ってくれ。わしはこれから坑夫を調べに行くが、その内には菊池技師も来てくれるだろう」  工手は鉄管の連結にとりかかった。係長は工手を残して歩き出した。  広場の事務所には、もう四人の嫌疑者達が、巡査と三人の小頭に見張られて坐り込んでいた。  お品はいつの間にか寝巻を着て、髪を乱し、顔を隠すようにして羽目板へ寄りかかりながら、ぜいぜい肩で息をしていた。兄の岩太郎は、顔や胸を泥に穢したまま鳩尾をフイゴのように脹らしたり凹めたりしながら、係長がはいって行くから睨みつづけていた。  峯吉の父親は、死んだ魚のそれのような眼で動きもせずに一つところを見詰めつづけ、母は小頭の腕に捕えられながら、時どき歪んだ笑いを浮べてはゴソゴソと落着がなかった。  係長は四人の真ン中につッ立つと、黙ってグルリと嫌疑者達を見廻した。 能見台 歯科 口も八丁手も八丁