2012年6月7日木曜日

よく見着けて採って来てねえ

「よく見着けて採って来てねえ、それでは私に下さるんですか、頂いておいても宜しいの。」 「だから難有うッて言いねえてば、はじめから分ってら。」と滝太郎は有為顔で嬉しそう。 「いいえ、本当に結構でございます。」  勇美子はこういって、猶予って四辺を見たが、手をその頬の辺へ齎らして唇を指に触れて、嫣然として微笑むと斉しく、指環を抜き取った。玉の透通って紅い、金色の燦たるのをつッと出して、 「千破矢さん、お礼をするわ。」  頤杖した縁側の目の前に、しかき贈物を置いて、別に意にも留めない風で、滝太郎はモウセンゴケを載せた手巾の先を――ここに耳を引張るべき猟犬も居ないから――摘んでは引きながら、片足は沓脱を踏まえたまま、左で足太鼓を打つ腕白さ。 「取っておいて下さいな。」  まるで知らなかったのでもないかして、 「いりやしねえよ。さあ、とうとう蟻を食っちゃった、見ねえ、おい。」  勇美子は引手繰られるように一膝出て、わずかに敷居に乗らないばかり。 「よう、おしまいなさいよ。」といったが、端なくも見えて、急き込む調子。 「欲かアありませんぜ。」 「お厭。」

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