2012年6月7日木曜日

座敷で暗から不意にそれを

座敷で暗から不意にそれを。明さんは、手を取合ったは仇し婦、と気が着くと、襖も壁も、大紅蓮。跪居る畳は針の筵。袖には蛇、膝には蜥蜴、目の前見る地獄の状に、五体はたちまち氷となって、慄然として身を退きましょう。が、もうその時は婦人の一念、大鉄槌で砕かれても、引寄せた手を離しましょうか。  胸の思は火となって、上手が書いた金銀ぢらしの錦絵を、炎に翳して見るような、面も赫と、胡粉に注いだ臙脂の目許に、紅の涙を落すを見れば、またこの恋も棄てられず。恐怖と、恥羞に震う身は、人膚の温かさ、唇の燃ゆるさえ、清く涼しい月の前の母君の有様に、懐しさが劣らずなって、振切りもせず、また猶予う。  思余って天上で、せめてこの声きこえよと、下界の唄をお唄いの、母君の心を推量って、多勢の上※たちも、妙なる声をお合せある――唄はその時聞えましょう。明さんが望の唄は、その自然の感応で、胸へ響いて、聞えましょう。」  と、神々しいまで面正しく。……  僧は合掌して聞くのであった。  そして、その人、その時、はた明を待つまでもない、この美人の手、一たび我に触れなば、立処にその唄を聞き得るであろうと思った。 被リンク対策は大事ですね - クレジットカードの雑学トップページ logly - saru