2012年6月11日月曜日

歌人の住居も早や黄昏れるので


歌人の住居も早や黄昏れるので、そろそろ蚊遣で逐出を懸けたまえば、図々しいような、世馴れないような、世事に疎いような、また馬鹿律義でもあるような、腰を据えた青年もさすがにそれと推した様子で、
「これはどうも飛んだお邪魔をいたしましてございます、勝山のあの娘も不束なものでございますから、どうぞまた先生様、何分、」と、ここでまたぴったりと平蜘蛛。
「はあ、それは宜しい、」ともう片膝を立てそうにする。
青年も座を開いてちょいと中腰になったが、懐に手を入れると、長方形の奉書包、真中へ紅白の水引を懸けてきりりとした貫目のあるのを引出して、掌に据え直し、載せるために差して来たか、今まで風も入れなんだ扇子を抜いて、ぱらぱらと開くと、恭しく要を向うざまに畳の上に押出して、
「軽少でございますが、どうぞお納を。」
と見ると金子五千疋、明治の相場で拾円若干を、故と古風に書いてある。
「ああ、こういうことをなすっては可けません、そのために、ちゃんと月謝をお入れになることにしてあります。」

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