2012年5月30日水曜日

「で、何かね、母様は、」


「で、何かね、母様は、」
と主税は笑いながら、わざと同一ように母様と云って、煙管を敲き、
「しばらく御滞在なんですかい。」
「一月ぐらい居るかも知れない、ああ、」と火鉢に凭掛る。
「じゃ当分謹慎だね。今夜なぞも、これから真直にお帰りだろう、どこへも廻りゃしますまいな。」
「うふふ、考えてるんだ。」とまた灰に棒を引く。
「相変らず辛抱が出来ないか。」
「うむ、何、そうでもない。母様が可愛がってくれるから、来ている間は内も愉快だよ。賑じゃあるし、料理が上手だからお菜も旨いし、君、昨夜は妹たちと一所に西洋料理を奢って貰った、僕は七皿喰った。ははは、」
と火箸をポンと灰に投て、仰向いて、頬杖ついて、片足を鳶になる。
「御馳走と云えば内へ来るめ組だが、」
皆まで聞かず、英吉は突放したように、
「ありゃ君、もう来なくッても可いよ。余り失礼な奴だと、母様が大変感情を害したからね、君から断ってくれたまえ。」

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