2012年4月21日土曜日

橋の上の見物は、またどっと声をあげて哂った


橋の上の見物は、またどっと声をあげて哂った。
船の中ではそのはずみに、三味線の棹でも折られたらしい。幕の間から見ると、面白そうに酔って騒いでいた連中が、慌てて立ったり坐ったりしている。今まではやしていた馬鹿囃子も、息のつまったように、ぴったり止んでしまった。そうして、ただ、がやがや云う人の声ばかりする。何しろ思いもよらない混雑が起ったのにちがいない。それから少時すると、赤い顔をした男が、幕の中から首を出して、さも狼狽したように手を動かしながら、早口で何か船頭に云いつけた。すると、伝馬はどうしたのか、急に取舵をとって、舳を桜とは反対の山の宿の河岸に向けはじめた。
橋の上の見物が、ひょっとこの頓死した噂を聞いたのはそれから十分の後である。もう少し詳しい事は、翌日の新聞の十把一束と云う欄にのせてある。それによると、ひょっとこの名は山村平吉、病名は脳溢血と云う事であった。

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