「わたしから話すったって、――わたしもあなたたちのことは知らないじゃないの?」
「だから聞いて頂戴って言っているのよ。それをちっとも姉さんは聞く気になってくれないんですもの。」
広子はこの話のはじまった時、辰子のしばらく沈黙したのを話し悪いためと解釈した。が、今になって見ると、その沈黙は話し悪いよりも、むしろ話したさをこらえながら、姉の勧めるのを待っていたのだった。広子は勿論後ろめたい気がした。
しかしまた咄嗟に妹の言葉を利用することも忘れなかった。
「あら、あなたこそ話さないんじゃないの?――じゃすっかり聞かせて頂戴。その上でわたしも考えて見るから。」
「そう? じゃとにかく話して見るわ。その代りひやかしたり何かしちゃ厭よ。」