2013年4月10日水曜日

お米も漸く疑いがほぐれて来た

 お米も漸く疑いがほぐれて来た。今までは垣覗きの遠目でよく判らなかったが、
こうして顔と顔とを突き合わせて親しくその人をみあげると、その鈴を張ったような大きい眼、しっかりと結んでいる口もとに、犯し難い一種の威をもっているようにも思われて、お米はなんだかまぶしく感じられた。しかもその眼には偽らない誠の光りがひそんで、その口には優しいなさけがこもっていることも、彼女の心を惹き付けた。この人が自分を欺そうとはお米もさすがに思われなかった。彼女はおとなしく聴いていた。  綾衣は又こんなことを言った。  お前が十さんと約束のあることは、わたしもここの阿母さんから聴いて知っている。こうして列べて見たところが丁度似合いの夫婦である。お前さん達は羨ましい。たとい一生を藁ぶき屋根の下に送っても、思い合った同士が仲よく添い遂げれば、世に生きている甲斐がある。いくら花魁の、太夫のと、うわべばかりに綺羅を飾っても、わたし達の身の果てはどう成り行くやら。仕合せに生まれた人たちと不仕合せに生まれた者とは、こうも人間の運が違うものか。返すがえすもお前さん達が羨ましくてならない。 CSR 口も八丁手も八丁