一座がここの興行を終って、半島の各地を打廻っているあいだも、
女はアンのあとをどこまでも追って、どうしても離れようとしない。一座の者も心配して、アンに意見もしたそうですが、年うえ女に執念ぶかく魅《み》こまれたアンは、誰がなんと言っても思い切ろうとはしない。それから五月ごろに再びシンガポールに来て、さらに地方巡業に出て、九月ごろにまた来て、また地方巡業に出る。それを繰返している間も、女はいつでも影のようにアンに付きまとっていて、二人の恋はいよいよ熱烈の度をますばかりで、周囲の者も手のつけようがなかったそうです。いくら人気者だの花形だのといっても、アンはたかがスマトラの原住民俳優ですから、その取り前も知れたものです。それが白人の女をかかえて歩くのですから、とても舞台で稼ぐだけでは足りるはずがありません。一座の者にはもちろん、世間にもだんだんに不義理の借金もかさんで来て、もう二進《にっち》も三進《さっち》も行かなくなったんです。」
言いかけて、早瀬君は突然に僕に訊いた。
ゴミ部屋 虎穴に入らずんば虎子を得ず