2013年2月18日月曜日

お染の顔を

 こうなると、お染の顔を見るのが辛い。
お染も自分の顔を見ると、よけいに悲しい思いをするかも知れない。いっそ出発するまでは彼女にもう逢うまいかと半九郎は思った。そうして、ひと晩は花菱に足をぬいてみたが、やはり一種の不安と憐れみとが彼を誘って、あくる日は花菱の座敷でお染の暗い顔と向かい合わせた。半九郎はその後もつづけてお染と逢っていた。  十月にはいると、半九郎のからだも忙がしくなった。将軍はいよいよこの十日には出発と決まったので、供の者どもはその準備に毎日奔走しなければならなかった。  その忙がしいひまを偸んで、ある者は京の土産を買い調えるのもあった。ある者は知るべのところへ暇乞いに廻るのもあった。神社や仏閣に参拝して守り符などを貰って来るのもあった。いろいろの買いがかりの勘定などをして歩くのもあった。それらの出這入りで京の町は又ひとしきり混雑した。 差し歯 クレジットカードを学ぼう