2012年11月19日月曜日

多分御承知の事とは思いますが

「そうです。――多分御承知の事とは思いますが、タンク機関車は他のテンダー機関車と違って、別に炭水車を牽引しておらず、機関車の主体の一部に狭少な炭水槽を持っているだけです。従ってH・N間の様に六十哩近くもある長距離の単行運転をする場合には、どうしても当駅で炭水の補給をしなければならないのです。勿論73号も、此処で停車したに違いありません。そして、この給水タンクから水を飲み込み、そこの貯炭パイルから石炭を積み込んだでしょう」  チョビ髭の助役はそう言って、給水タンクの直ぐ東隣に、同じ様に線路に沿って黒々と横わった、高さ約十三、四呎長さ約六十呎の大きな石炭堆積台を、肥った体を延び上げる様にして指差した。  そこで喬介は助役に軽く会釈すると、今度は、司法主任と向合って顕微鏡の上に屈み込んでいる警察医の側へ行き、その肩へ軽く手を掛けて、 「どうです。判りましたか?」  すると警察医は、一寸そのままで黙っていたが、やがてゆっくり立上って大きく欠伸をひとつすると、ロイド眼鏡の硝子を拭き拭き、 「有りましたよ。いや。仲々沢山に有りましたよ。――先ず、多量の玻璃質に包まれて、アルカリ長石、雲母角閃石、輝石等々の微片、それから極めて少量の石英と、橄欖岩に準長石――」

  薬剤師 募集 高知県薬剤師会ホームページ