「もういい。戦車の外のことなんて、もうどうでもいい」
「じゃあ、この棺桶は、じつにすばらしいですなあ。オール鋼鉄製の棺桶ですぞ。棺桶てえやつは、たいていお一人さん用に出来ていますが、軍曹どの、われわれのこの棺桶は、ぜいたくにも、お二人さん用に出来上っていますぜ」
「おい、しばらく、黙っとれ。おれは、なにがなにやら、わけがわからなくなった」
パイ軍曹は、座席のうえに、うつ伏して、両腕で、自分の頭を抱えてしまった。
それを見て、ピート一等兵も、なにやら、心細くなって、自然に口に蓋をした。
ざあざあと、気味のわるい音が、この戦車の壁の外でする。ごーん、ごーんと、鉄板を叩くような音も、聞える。
と、とつぜん、どどどどーんと、四連発の大砲を、あわてて撃ちだしたときのように、おそろしい響きが伝わってきた。――と、思ったとき、そのとき遅く、二人の乗っていた戦車は、ぐらぐらとうごきだした。
「おい、たいへんだ」
「足が、ひとりでに、上へ向いていくぞ」
戦車はまるでフットボールを山の上から落したときのように、天井と床とが、互いちがいに下になり上になりして、弾みながら、落下していくのが、二人にも、やっとわかった。
(どうなるのであろう? これも、カールトン中尉の遺骸を、外に置き忘れてきたためか!)
二人は、もう、生きた心もなかった。
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