2012年6月7日木曜日

夜深しに汗ばんで

夜深しに汗ばんで、蒸々して、咽喉の乾いた処へ、その匂い。血腥いより堪りかねて、縁側を開けて、私が一番に庭へ出ると、皆も跣足で飛下りた。
 驚いたのは、もう夜が明けていたことです。山の巓の方は蒼くなって、麓へ靄が白んでいました。
 不思議な処へ、思いがけない景色を見て、和蘭陀へ流された、と云うのがあるし、堪らない、まず行燈をつけ直せ、と怒鳴ったのが居る。
 屋根のその辺だ、と思う、西瓜のあとには、烏が居て、コトコトと嘴を鳴らし、短夜の明けた広縁には、ぞろぞろ夥しい、褐色の黒いのと、松虫鈴虫のようなのが、うようよして、ざっと障子へ駆上って消えましたが、西瓜の核が化ったんですって。
 連中は、ふらふらと二日酔いのような工合で、ぼんやり黒門を出て、川べりに帰りました。
 橋の処で、杭にかかって、ぶかぶか浮いた真蒼な西瓜を見て、それから夢中で、遁げたそうです。
 昼過ぎに、宰八が来て、その話。
 私はその時分までぐっすり寝ました。
 この時おかしかったのは、爺さんが、目覚しに茶を一つ入れてやるべいって、小まめに世話をして、佳い色に煮花が出来ましたが、あいにく西瓜も盗んで来ない。何かないか、と考えて、有る――台所に糖味噌が、こりゃ私に、と云って一々運ぶも面倒だから、と手の着いたのじゃあるが、桶ごと持って来て、時々爺さんが何かを突込んでおいてくれるんでした。
 一人だから食べ切れないで、直きつき過ぎる、と云って、世話もなし、茄子を蔕ごと生のもので漬けてありました。可い漬り加減だろう、とそれに気が着いて、台所へ出ましたっけ。
(お客様あ、)
(何だい。)
(昨夜凄じい音がしたと言わしっけね、何にも落こちたものはねえね。)
 って言いながら、やがて小鉢へ、丸ごと五つばかり出して来ました。
 薄お納戸の好い色で。」

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