子 死ななかつたの?
父 そのうちに町のまん中へ来ると、とうとうお尻の傷の為に倒れて死んでしまつたとさ。けれどもお尻に立つてゐたらつぱは虎の死んでしまふまで、ぶうぶう鳴りつづけに鳴つてゐたとさ。
子 (笑ふ)らつぱ卒は?
父 らつぱ卒は大へん褒められて虎退治の御褒美を貰つたつて……さあ、それでおしまひだよ。
子 いやだ。何かもう一つ。
父 今度は虎の話ぢやないよ。
子 ううん、今度も虎のお話をして。
父 そんなに虎の話ばかりありやしない。ええと、何かなかつたかな?……ああ、ぢやもう一つして上げよう。これも朝鮮の猟師がね、或山奥へ狩をしに行つたら、丁度目の下の谷底に虎が一匹歩いてゐたとさ。
子 大きい虎?
父 うん、大きい虎がね。猟師は好い獲物だと思つて早速鉄砲へ玉をこめたとさ。
子 打つたの?
父 ところが打たうとした時にね、虎はいきなり身をちぢめたと思ふと、向うの大岩に飛びあがつたとさ。けれども宙へ躍り上つたぎり、生憎大岩へとどかないうちに地びたへ落ちてしまつたとさ。
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